<密着取材>
マラリア患者患馬の色々(96/12/17 ミツグオー)

当厩舎の現況(日本産馬)

名 前厩舎所属期間マラリア
発病回数
備  考
ナンニワノワンマン3年11月無し毎日予防を飲んでいるので罹らない(?)
ヨルノニュードー3年9月3回マラリアがお友達
ミツグオー3年11月3回あー、寒気がする、もうダメだ
(レポーターはこのあとマラリアで倒れた)
サイトホープ3年4月無し牝馬にもマラリアにも見放され
ショーナイデッチ0年6月1回三日麻疹ならぬ3日マラリア
ボクドラエモン1年6月2回本来寡黙な性格で、熱が40度になって初めて口を開いた
合計16年11月9回平均2年弱に一回の発病

取材報告

 中央アフリカ名物はなんと言ってもマラリアである。 これを土産に日本へ持って帰られる御仁が多いので、何故そんなに魅力があるのかを取材してみた。

原虫
<マラリア原虫>
 マラリアの運び屋はハマダラ蚊(羽がまだらになっている)で通称ハマちゃんと呼ばれている。普通の蚊は猫背気味に壁にとまるが、ハマちゃんは頭を下に尻を高々と逆立ち状態、すぐに身元が割れてしまうのである。
日本ではそんな格好でうろうろしていると目立ってしょうがないので、最近は立ち寄らないらしい。
 ハマちゃんもマラリアを運ぶために生まれたわけではなく、たまたま人間や我々のような高級馬の血が大好物で、危険を省みずついつい手、あっ失礼、針を出してしまうのである。
 人間どもはハマちゃんを「マラリア原虫の卵の運び屋」だと言って悪者扱いをするが、「そんな原虫を持っている人間どもがが悪いのだ」とハマちゃんは言っていた。

卵
<原虫の卵>
 さて、知らないうちに望みもしない人間や我々の体に埋め込まれた原虫の卵は2001年宇宙の旅、深い眠りについたまま、溺れもせずに川の流れに身を任せ美空ひばり状態をつづけるわけだが、卵から孵ってみればそこは楽園、おいしいそうな赤血球がうじゃうじゃ、ばんばん食べて、ばんばん繁殖して、たちまち血管に充満状態、大渋滞で一巻の終わりとか。

顕微鏡
<顕微鏡>
 ウイルスにはワクチン、ばい菌には抗性物質、エイリアンにはシガニーウイーバー、象や、鯨には人間という敵がいる。
 象とか鯨とか大きい奴は人間が退治して今ではなかなかお目にかかれないが、先日、我々の厩舎近くに象が3頭出現し村人にけがをさせたので、政府の許可を得て病院の人が射殺してしまったらしい。
 しかしマラリア原虫のように中途半端に小さいヤツはやっつけるのがなかなか難しく、今のところ強敵が現れていない。

着色液
<着色液>
 マラリア原虫も虫なのだからアリとかイモムシと同類だろう。憎まれ子世にはばかる。耐性を生むような有効な薬ができず、使う薬は激薬、いわゆる殺虫剤、または虫くだし的なものでやっつけているのだと小生は考えている。

体温計
<体温計>
 戦前はキニーネがマラリアに対する確固たる地位を築いていたのだが、クロロキンがその王座を奪い、予防薬または治療薬として大活躍した。しかし、いわゆるダーウィン的進化(?)によりクロロキン耐性マラリア原虫が出現し、色々な薬を作っているが、あちらの水はあーまいか、こちらの水はにーがいか状態である。

ニバキン
<ニバキン>
 マラリア通の間では「ニバキン(クロロキンのこと)にするかハルファンそれともファンシダールにするか」と言って、ニバキン党、ハルファン党、ファンシダール党、党派に分かれてそれぞれの効力、副作用をめぐって激しい応酬がある。(そんなものはない−WMの注釈)

ハルファン
<ハルファン>
 中央アフリカ名物はマラリア原虫にマラリア治療セット、皆さんも旅のお記念に是非どうぞ(誰も来ないっていうの−WMの注釈)。
ニバキン、ハルファン、キニマックス、「熱が出ても出なくてもニバキンだけは1日1錠60日間飲むのだよ、ニバキンが効かなきゃ、ハルファンで1発勝負だ!」なんて短気はおこさずにちゃんとお医者さんに相談するのですよ。海外渡航者の為の医療情報サーヴィス参照。

 さて、罹る前に必死に防御につとめるひと、何回罹っても懲りない人、何年いても罹れずに悔しがる馬、運がいいとか悪いとか人はそれぞれ口にするけれど、今まで永い年月を掛けて行った密着取材の成果をここでまとめて公開しよう。
 しかし、人権馬権(馬券ではない)に関わることなので、匿名にする。


ファンシダール
<ファンシダール>
ケーススタディ

<ケース 1:ハネムーンベィビーのケース>

 中央アフリカに到着して最初に刺された蚊で感染するケースは多い。俗に言うハネムーンベィビーである。
 このケースは出張馬、帰任馬を含めて過去5年間で4、5頭いる。潜伏期間は2週間と言われているから出張馬などは日本で発病することになる。
 日本で発病すると、好奇の目で見られるようである。伝染病なので移されるのではないかと心配とかされ、牝馬などは特に近寄りたがらない。しかし、ハマちゃんの居ない日本なんてマラリア君は興味がない。

キニマックス
<キニマックス>
<ケース 2:不幸を克服したケース>

 スリランカ産馬数頭を連れて来たが、パリでの飛行機に乗り遅れ、ビザがないスリランカ産馬と一緒に犯罪者扱いされ、ホテルに監禁された。
 疑いが晴れて、バンギ空港についた時には手荷物で持って来たかいばが届かず、後日届いたときには、荷物がパンクしてスリランカのカレー粉の舞う荷物室で涙をながした。
 無事にヤロケに着いたとたん、壊れそうなセスナ機で怪我人をバンギまで運ぶ役目を負わされ、バンギに着いたとたん意識不明になった。病院に担ぎ込まれた時は重症のマラリアであった。人の運、不運を感じた、魔の2週間!
 しかしその後立ち直り、マラリアを友としてしまい、帰国の際には土産に持って帰った。

<ケース 3:不幸を克服できなかったケース>

 フランス語も英語も話せない、もちろん現地語も。そんな彼がここに着任して先ずやられたのがスリであった。
 金はともかく自分の部屋の鍵を盗られてしまった。スペアキーも全部一緒に持っていかれたのである。普通はスペアキーは別に保管するする物なので、恥ずかしくて人に言えず、しばらくは窓から出入りしていた。
 ある時、買い物に行って荷物を現地人に運ばせたところ、物が足りない。盗まれているのである。こんな事が数回あって、極度の現地人不信に陥った。
 そんなある日マラリアに罹ったのであるが、風邪ひきだと思って誰にも言わずに3、4日風邪薬を飲んでいたが、突然倒れた。4時間掛けてバンギの病院へ運ばれたがずっと意識不明。重症のマラリアで手遅れ寸前であった。  医者の治療の甲斐有って、無事意識も回復し日々に元気になって来たのであるが、全快しないのである。医者は「もう治ってる」と言うのであるが、本人が「治っていない」と言うのだから仕方がない。  結局、日本へ帰国することになったのだが、帰国が決まったとたんに全快してしまった。

<ケース 4:ハマちゃんの恐怖から抜けられないケース>

蚊取り線香
<蚊取り線香>
 ホテルで感染することが多いとのデマかうわさを恐れて、部屋に5、6本の蚊取り線香を常にたいていた。ハマちゃんはもちろん入れないし、メイドも泥棒も入れない。
 そんな彼が突然体の不調を訴えた。てっきり、蚊取り線香のたき過ぎで、本人がやられたと思ったら、違った。マラリアの予防薬を通常の3倍も飲み続けたのである。よくも命があったものだ。マラリアの薬は全て劇薬なので注意が必要である。
 このあと、ホテルはこの部屋を封鎖した。蚊取り線香のにおいで部屋が使い物にならなくなったのである。損害賠償の請求が来なかったのはこの国の人がおおらかだから?

電気蚊取り
<電気香取>
<ケース 5:熱に弱いケース>

殺虫剤
<殺虫剤>
 みんなが半袖姿で仕事をしているときに「この部屋なんか寒くない?」と言ってすぐに上着を羽織る馬が当厩舎にいる。こういうのは大体がマラリアと言って良い。すぐにマラリアに罹ったのが分かるので、治療が早く大事に至らない。
 専門医の話によると肥えていると熱の発散が悪いので微熱でも大騒ぎするらしい。マラリアの場合は大騒ぎして、早く治す方がよい。

<ケース 6:熱に強くて困るケース>

 何かおかしいな、と言いながら普通に仕事をしていた。彼は普段あまりべらべら話しをしない質なので仕方がないが「熱があるみたいだ」と言ってきたときには40度近かった。
 ヤロケからアメリカ人の医者が来て治療してくれたが、手当を始めるのが遅かったのか、なかなか治らない。それでも4、5日で相当良くなったのだが、そのあとまた熱が上がりだした。
 結局、ヤロケの病院に入院。それから退院してもまた熱が上がって、完治するのに2週間もかかった。初期治療が遅れたのである。

<ケース 7:ホームシックになるケース>

 少し熱があるというので検査するとマラリアだった。すぐに薬を飲んだので次の日にはもう熱が下がった。念のため3日間安静にしていたが、退屈でホームシックにかかってしまった。母が恋しいというモノだから私が岸壁の母を唄ってやるとすやすやと寝てしまった。
 一般にこういう軽いケースが多いが甘く見ると危ない。

<ケース 8:マラリアと友達になるケース>

 「体が何となくおかしい」「冷や汗が出る」と言って熱もないのに自分はマラリアというのがいる。半信半疑で獣医が検査するとマラリアであった。  この馬の場合はマラリアに何回か罹っているが、熱がほとんど出ないか、出ても微熱程度で治っている。自分がマラリアになった時にすぐに察知する能力を身につけたようだ。

<ケース 9:マラリアを体内に飼っているケース>

 ヤロケに7年いる米国人の獣医は「この国にいる限りマラリアに感染するのは避けられない。要は如何に発病しないようにするかだ。」と言ってる。  彼によるとアメリカ産馬は体重60kgの場合ニバキン(100mg)を3錠毎週一回とパラデュリンを毎日2錠ずつ、フランス産馬はニバキンを毎日1錠ずつ週に6回とパラデュリンを毎日2錠ずつ飲んでマラリアの発病を予防している場合が多いそうだ。  ちなみにヤロケ厩舎の全馬を検査したところ発病していないマラリアのキャリアーが相当いた。日本産馬は胃腸が弱くニバキンの副作用が出るものが多いので、アメリカ産馬やフランス産馬を参考にして各馬が自己の判断で予防することにしている。

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