ヘールボップがやって来た

(97/05/12)

 ヘールボップ彗星がやって来るというので、日本で CD-ROM を買ってきて、彗星の動きを調べてみた。
 3月下旬から4月上旬にかけて一番明るくなり、日本ではよく見えるのだが、中央アフリカは緯度が低いため、彗星は地平線に近くてほとんど観測できないということが分かった。
 4月下旬になると、ここでもよく見えるようになり、彗星はだいぶん暗くなるがそれでも1等星以上であるらしい。

Hale Bopp  4月24日の夕方、現場からトランシット(望遠鏡の付いた測量器械)を宿舎へ持って来て日が沈むのを待ったが、残念ながら地平線付近には雲があって星が見えない。
 上空には星がいっぱい見えるのだが仕方がない。中央アフリカはそろそろ雨期が始まっているのだ。

 次の日も、その次の日もやはり地平線付近には雲があって、夕焼けは綺麗なのだが、星は見えない。
 そして5月3日の夕方6時頃、それまであった地平線付近の雲が急に消えた。早速みんなに声を掛けて、トランシットを据えて日没を待った。

 夕日が沈むころ、地平線の上10度くらいのところに宵の明星(金星)が光り出した。まだほかの星は全く見えない。
 金星が地平線に隠れる頃、恒星では一番明るい「おおいぬ座」のα星(一つの星座の中で一番明るい星)であるシリウスが見えてきた。
 続いて「こいぬ座」のα星プロキオンと「オリオン座の」α星ベテルギウスが見えて「冬の大三角」が大きく形成された。

 上空には星の数が増え、そろそろヘールボップが見えるはずだ。ベテルギウスの右下にあるのがぎょしゃ座のカペラで、その左下に星が見えてきた。
 早速トランシットで覗いてみる。何の変哲もない星である。
 「彗星と言ってもこんなものか」と思っていると、誰かが「もっと左に何かが見える」と言った。トランシットで覗くとどうしてもピントが合わない。

 時間が経つにつれ正体がハッキリしてきた。星図を調べると最初に見えたのは「ぎょしゃ座」のベータ星だったのだ。
 その左下によく目を凝らすと周りがボヤーッとした星が見える。7時を10分くらい過ぎたところで、キャンプの発電器を止め照明を完全に消した。

 雨が降ったり曇っていると話にならないが、雨期は空気が澄むので、星の観察には都合がよい。
 乾期の中央アフリカは砂ぼこりや北東の方から来るハルマッタンの影響で快晴にも関わらず、空はいつもどんよりしている。星の数は日本より少ないだろう。

 ヘールボップに目をやると、彗星の尾がきれいにみえる。綺麗と言っても輪郭はほとんど分からない。
 尾は相当長く、本当に箒(ほうき)のように右上の方へ伸びている。オリオン座の真ん中にある3つ並んだ星の倍くらいはありそうだ。
「何千年も前にこの星を見た人はどのように感じたのだろう。今度この星が現れるときには世界はどうなってるのだろう。」というようなことを考えてると何となく感傷的になってしまった。

 彗星は30分ほどで地平線に沈んでしまい、壮大な宇宙ショーも終わりを告げ、南の方に目をやると南十字星がちょうど上ってきたところだ。
 見上げてみると全天に針で穴をあけたような星の数であった。

 誰か、中央アフリカまで星を見に来ませんか?